レポート 銭屋五兵衛を想う【霜の花茶会】その③
茶道を始めた当初から、いつか銭屋五兵衛に関連する場所で、銭屋と所縁のある人物の前で、茶を点てたいと僕は考えてはいた。
なので、今回の浜さんからのご提案は有難くも
「こういう形で来るのか」
というある種の呆気なさが僕の中にあったこともまた事実。
躊躇しながらも引き受けたからにはしつらえを考えねばならない。
まず真っ先に思い浮かんだことは、先祖の茂八郎が銭屋を去る際に提出した諫言書【名残の霜】だ。
今回、僕がお点前することは、大仰にいえば茂八郎が喧嘩別れして160年ぶりほどに髙橋家と銭屋が関わることでもある。
茂八郎の名残の霜から、何か地続きであることをできれば、、、と思い、ない知恵を絞る。
名残の霜。
霜といえば、“心あてに”からはじまる、有名な百人一首の詩が思い起こされる。
おきまどわせる白菊の花。
そこで、非常に単純ながらお菓子は白菊の花をモチーフにしたものを使うことに決め、和菓子屋のご主人に僕の意図と、和歌をそえてお菓子づくりを依頼した。
次に決まったのは茶入。
今回お点前するのは三畳向切の小間。
ならば、薄茶ではなくやはり濃茶を練りたい。
あいにく僕は茶器を持ち合わせてはいないため知り合いのお茶人から借り受けることにした。
実際にその茶入を手に取ると、ありふれた焼物の茶入ではなく金工の作品で、しかも金属の美しい光沢や象嵌の華やかさがあるわけでもない、寂びた風情の茶入。。
素材の対比を考えるならば、備前や信楽など焼締系の茶碗を置き合わせるのもいいかもしれないが僕は友人でもある作家、魚津悠くんの寂びた、マットな茶碗を考えた。
この茶碗は寂びた風情ながらやや大振りで力があり、研ぎ澄まされたフォルムの茶器に合うのではないかと思ったから。
自宅で茶器と茶碗を置き合わせてみる。
想像以上に良い。
水指は僕の茶会では定番のこれまた魚津悠くんのもの。茶碗と茶器との相性もまずまず。
俄然、茶会が楽しみになってくる。
このとき、深夜の2時だったけれど僕は気持ちが高ぶって眠れなくなっていた。
あとは、茶室でどうなるかだけ。
朝が来るのが楽しみだった。
そしてこれが実際に置き合わせたもの。
それぞれミニマムなデザインながらも自然と調和し美しい。